DEAI NO EKI OKAZAKI ひと、まちストーリー

岡崎のひとの想いに触れるインタビュー。

明治25年、歩き売りから始まった花屋の、未来への新たな一歩。

南天荘5代目専務取締役 
柴田 隆司さんインタビュー

明治25(1892)年の創業以来、130年以上岡崎に根を張って花屋を営んできた南天荘。人生の節目や贈り物に花を求めて人々が訪れるほか、小学生が社会科見学に訪れるなど地域に愛されてきたお店です。2025年2月に移転し、再スタートを切った南天荘。その歴史やこれからについて、5代目専務取締役の柴田隆司さんにお伺いしました。

はじまりは、花の歩き売りから

「明治時代、今の実家のある山中や本宿のあたりで、花の歩き売りを始めたのが最初だと聞いています。当時は蒲郡や幡豆のほうまで歩いて行っていたそうですよ。」

創業者が花を背負い、売り歩き始めたのが南天荘のルーツ。その後、地域でいち早く自動車を購入し、歩き売りから移動販売へ事業を拡大。現在もつづく葬儀関連の仕事は、1990年代には始まっていたそうです。

「南天荘」という屋号や、新店舗の看板にも配されているユニークなロゴが誕生したのも、ちょうどその頃。どうして「南天荘」という屋号になったのでしょうか。
「赤い実をつける南天という植物がありますよね。“難を転じて福となす”といわれる縁起木で、昔は家の庭にその南天がたくさん植えられていたそうです。それが名前の由来。当時だったら自分の名字を屋号にしそうなもんですが、センスがいいなと思います。このロゴももう何十年とつかっています。データがなくて、必要なときは手書きで描かれた紙を引っ張り出してきます(笑)」

花に導かれ、工場から、家業へ

今でこそ専務取締役として忙しい日々を送る隆司さん。しかし、当初は花屋を継ぐ気はなかったそう。

「実家を継ぎたくなくて工業高校へ進学し、卒業後はメーカーに就職しました。2年間ほど工場で勤務していたのですが、あるとき、親父から土日に店を手伝うように言われたんです。それが、花屋の仕事をはじめたきっかけですね。」

はじめは手伝いのつもりで始めた花屋の仕事。しかし、少しずつ心境に変化が生まれていったといいます。

「お花って、贈ると喜んでもらえますよね。作りたいものを作って、お礼をもらえる。それが、やっていて一番面白いところだなと思いました。その頃くらいから、花屋いいなと思うようになったんです。あのとき手伝うようになったから、今があります。」

家業に入ることを決めた隆司さんはその後、メーカーを退職し、東京にある花の専門学校へ進学。卒業後、東京での修行を経て、岡崎へ戻ってきたそうです。

技術とセンスで彩る「花祭壇」

「僕が岡崎に帰ってきてから始まったのが、葬儀の花祭壇の仕事。大きな祭壇を作り上げたときの達成感は格別です。」

「花祭壇」とはその名の通り、全体を花で飾る祭壇のこと。 規模が大きく、繊細な技術と美的センスが求められるため、作業は時に深夜まで及ぶそうです。

「横が約5〜6m、縦に三段ある花祭壇を一人で作ったこともあります。両サイドから別の人が作ると全体の雰囲気が微妙に変わってしまうことがあるため、少なくとも自分が好きな菊のラインは一人で担当します。祭壇は完成までに8時間ほどかかるのですが、やりがいがあって楽しいです。」

時には、自治体の首長や経営者など、影響力のある方々の花祭壇を手がけることも。規模が大きく大量の生花を扱うため、より忘れられない仕事になるそうです。

「数年前、ある自治体の長が亡くなったときに300か400ほどの大量の生花を用意したことがあります。昨年もある企業の社長のお父さんが亡くなったときに、300ほどの花を作りました。他の花屋さんと一丸となって頑張る感じがいいですね。倉庫が花でびっしり埋まる光景は、圧巻ですよ。そういう大きな仕事ほど、やっぱり達成感があります。」

この人に作ってほしい、と選ばれる花屋に

お花屋さんとして大切にしていることは、お客様に喜んでもらうこと。そして、スタッフ一人ひとりの感性を発揮してもらうことだそうです。

「人それぞれ、好きな花やデザインが違いますし、スタッフの個性も違います。その上で『この人に作ってほしい』と思ってもらえる花屋になれたら、それが一番楽しいじゃないですか。お花って本当にセンスの世界なので、合う合わないがある。それでも、うちに来てくれるお客様がいるのはありがたいですね。」

接客スタイルも自然体で、フレンドリーな雰囲気を心がけているといいます。

「僕はお客さんに『久しぶりっすね!』とか、気軽に話しかけちゃうタイプなんですよね(笑)。それが好きな人もいれば、苦手な人もいるかもしれないけど、それがうちのスタイルですから。」

ふらっと寄れる、花のセレクトショップ

2025年2月、「南天荘」は元あった場所から少し離れた場所へ移転。装いも新たにスタートしました。目指すのは、単なる花屋ではなく「セレクトショップ」のような場所です。

「スタッフが『好き』『おもしろい』と思えるものを仕入れて販売したいと考えています。例えば、以前スタッフからの提案で“枝豆を育てるキット”を販売したことがあったのですが、意外と好評で。同じように面白い試みは続けていきたいですね。」

最近、仕入れて面白かったのは「苔テラリウム」だそう。男性が買うだろうという当初の狙いが外れたことも含めて、良かったと言います。

「仕入れるときは“男性が好きそうだな”と思ったんです。でも、いざ蓋を開けてみたら、意外と女性のほうが購入されていく。見た目が可愛くて、育てやすい点が支持されているのかもしれませんね。そんな予想だにしない結果も含めて面白いところ。インテリア要素のある『ソープフラワー』や、枝豆キットのように季節に合わせたユニークな商品なども自由な発想で取り入れていきたいですね。」

セレクトショップのようにおしゃれな空間を目指す一方で、「敷居を高くしないようバランスを大切にしたい」とも。

「何より大切にしたいのは、地域のみなさんが気軽に立ち寄れる“楽しいお花屋さん”をつくることです。代々受け継がれてきたこのお店を、これからここでさらに愛されるお店にしていきたいです。」

たった一人の花の歩き売りから始まった南天荘。その歩みは、これからも続きます。

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